感謝すること

この世にお釈迦様がお生まれになった時、天地を指さされて「天上天下唯我独尊」と言葉を唱えられたということは、広く知られております。

この言葉は、「お釈迦様ご自身が最も尊い存在である」と言っているわけではありません。

仏教には死後の世界として、六道という6つの世界があると言われています。我々は死後、この6つの世界をぐるぐる巡り、修行を続けて最終的にこの輪廻から抜け出すこと(解脱)を目的としているわけです。

その六道の中でも、私たちが存在しているこの人間界(道)が唯一仏法を聞くことが可能であり、この輪廻から脱出することができる可能性を秘める世界なのです。

動物や昆虫等では果たすことのできない、人間界に生まれたからこそできる事、それが仏教修行なのです。

つまり、天上天下唯我独尊という言葉は、「解脱が可能な世界である、人間界によくぞ生まれてくれた」という、お釈迦様自身の感謝の言葉ととることができます。

人間として生まれるということのありがたさを痛感させられる言葉ですね。

真言宗のお参りでは、最初に仏前で合掌いたします。これは、人間界にいのちを与えてくださった仏様に感謝し、自分が今こうして生きていられるのは、ご先祖様や周囲の方々のおかげでありますので、自分を支えてくださるすべての方に感謝するわけであります。

現代日本では、平和で物がたくさんある豊かさに慣れてしまい、もったいない、おかげさま、ありがとう、といった日本人の素晴らしい心が薄れている気がいたします。

この感謝の心を、いま一度意識して人生を歩みたいものです。

伊東大善

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