自利/利他スイッチ

自利とは、自分を利すること。利他とは、他者を利することをいいます。

お大師さまも『御請来目録』の中で、「釈教は(中略)一言にしてこれを弊せば、ただ二利に在り」、つまり「仏教は(中略)あえて一言でいうなら、自利・利他の二利にある」と仰っているくらい、私たち真言僧にとって大切な言葉です。けれど、僧侶だけのものでもないでしょう。そこでこの度は、私たちの日常生活のなかでの自利・利他について、お話させていただきますね。

私たちは日々、多くのご縁に支えられています。すぐさま顔の思い出せる方から、顔も名前も知らない方々まで、たくさんの人のお気持ちやお仕事によって、今日も生活できています。それを思えば、「自分ひとりだけが得をする行動」というものは、実はなかなか出来ませんし、「情けは人のためならず」とはよく言ったもの。ですから、自分を利するものであれ、人を利するものであれ、自分が善いと思ったことは、自信を持ってやれば良いのだと思います。

しかし、なかなか上手くいかないこともありますよね。恥ずかしながら自分の経験を申し上げますと、お寺に入ってすぐ「自己の精進のために」とやり始めた勤行が、まるで長続きしませんでした。ところが先輩方のご助言を受け、「檀家の方々や地域の皆さんのために」と思い直し、もう一度挑戦したところ、同じ内容なのに不思議と続くようになりました。「誰かのために」と思うと努力できる自分に驚くとともに、お大師さまの教えに利他があって本当に良かったと思いました。

「自分にとって必要なことなのに、なぜかうまくいかない時」、また逆に「人に尽くすことに疲れてしまった時」、必要なのは目先の意識や行動を切り替えてみることかもしれません。ちょうど「暖房」を「送風」に切り替えるように、自利を求めてきた時には利他を、利他をがんばってきた時には自利を意識してみる。そんなスイッチを、心の中に持ってみたいと思っています。

その名もずばり「自利/利他スイッチ」。

あなたもおひとつ、どうですか。

文章 N寺 T師

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